もう15年以上も前か?
世界遺産というコトバも聞かなかった頃。
ラウスに登った。
宿の車で登山口まで送ってもらった。
下山したところでヒッチハイクすると運良く宿まで乗せてくれると言う。
スバルの新しいセダンだった。
当然舗装もしていない、大自然の道を快調にドライブしていた。
1600mの登山とはいえ、かなりの疲労があった。
惨劇はやはり突然に訪れる。
ジャリの深いカーブ。ガードレールなんてありはしない。
気がつくと病院で寝ていた。
長旅の疲れもあり、ずっと寝ていたみたい。
後からいろいろ話しを聞いて、何が起こったのか?が、
ちょっとずつ分かってきた。
3回転くらいしたらしい。全損したらしい、新車だったのに。
宿に戻ると、何回も何回も同じ話しをしていたらしい。
あまりのヒドさに病院に連れて行ってくれた。
ひとりきり、ベッドで自分の名前を何回も言ってみた。
何が起こったのか覚えていない。
住所も覚えてた。生年月日も覚えてた。ヒッチハイクしたのも覚えてた。
その瞬間の記憶だけが抜けている。
車の持ち主が見舞いに来てくれた。彼らは虚空を見続けていた。
両親が文字通り、飛んできた。情けなくて申し訳ない気持ちで一杯だった。
ベッドが空いていなくて、床にペラペラの布団を敷いて母が寝た。
涙が止まらなかった。
バカ息子、それ以外のコトバはいくら考えても見つからなかった。